No.99

「でも、この曲って ぜったいに この人ならではの発明なんかじゃないわ。これって『I GIVE THEE ALL, I CAN NO MORE』の曲だもん」とアリスは思いました。そして立って、いっしょうけんめい聴いたのですが、目にはぜんぜん涙が浮かんできませんでした。

「汝になるべくすべてを話そう
伝えることはほんの少し。
ぼくは門にすわった
すごく年寄りの男を見かけた。
『お年寄り、あなたはだれ』とぼくはたずねる
『そしてあなたのお仕事は?』
そしておじいさんの答はぼくの頭を
ざるに入れた水みたいに流れ落ちる。

おじいさん曰く『わしは小麦の中に眠る
チョウチョたちを探しとる。
それをマトンのパイにして
道ばたにて売りさばく。
そしてそれを売る相手たちは
嵐の海をわたる男たち
そうやってわしは糊口をしのぐ――
ちょいとばかり、とはいうものの』

でもそのときぼくが考えてたのは
ヒゲを緑に染めること
そしてなるべくでかいうちわを使い
それをいつも隠すこと。
だからおじいさんのことばに対し
ぼくは返すことばもなく
『ねえ、あなたのお仕事は?』と叫び
そしておじいさんの頭をたたく。

するとやさしい口調で始まるお話:
『わしはあちこちでかけて
山の小川を見つけると
そいつをはでにふき飛ばし
ロランド・マカサー育毛油なる
代物をこしらえる――
それだけ苦労してももらえるのは
たったの二ペンス半ばかりなり』


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