「すごく長いですか?」とアリスはたずねました。その日は、もうずいぶんたくさん詩をきかされてきたからです。 騎士(ナイト)は言いました。「長い。でも、それはそれはきれいなんだ。ぼくが歌うのを聞いた人はみんな――みんな目に 涙を 浮かべるか、それとも――」 「それともなに?」とアリス。騎士(ナイト)が急に口を止めたからです。 「それとも浮かべないか、だよ。この歌の名前は『タラの目』と呼ばれてるんだ」 「ふーん、そういう名前なんですかぁ」とアリスは、なんとか興味を持とうと努力して申しました。 騎士(ナイト)はちょっといらいらしたようすで言います。「いやちがうよ、わかんないかな。それは歌の名前がそう 呼ばれている っていう話。名前そのものは『すごく歳寄りの男』なんだ」 「じゃあ、『その 歌 はそう呼ばれてるんですかぁ』って言うべきだったのね、あたしは」とアリスは自分を訂正しました。 「いいや、べきじゃない。そりゃまったく別の話だよ! 歌は 『方法と手段』って呼ばれてるんだ。でも、これはそれがそう 呼ばれてる ってだけなんだよ、わかる?」 「じゃあそれなら結局、歌そのものは いったいなんなの ?」この時点でアリスは、もう完全に頭がこんがらがっていました。 「いま説明しようとしてたところ。歌そのものは『門にすわって』なんだよ。そしてメロディはぼくならではの発明なんだ」 そう言いながら、騎士は馬を止めて、手綱をはなして馬の首にかけました。そして、片手でゆっくりと拍子を取りながら、自分の歌の音楽を楽しんでいるかように、優しいへんてこな顔を軽い微笑でかがやかせつつ、歌い出したのでした。 鏡の国の道中で、アリスはいろいろふうがわりなものを見てきました。でもずっと後までいちばんくっきり心に残ったのが、この光景でした。 何年もたってからでも、アリスはこの場面を丸ごと、ついきのうのできごとみたいにそっくり思い出せたのです――騎士(ナイト)の穏やかな青い目と優しげなほほえみ――夕日がその髪の毛ごしにぎらついて、甲冑にはねかえった強い光で目がくらくらしたこと――馬が静かにうろうろして、手綱をゆるく首からぶら下げつつ足下の草をかじっているところ――そして背後の森の黒い影――そのすべてを、アリスは写真みたいにとりこんだのでした。片手を額にかざして、木にもたれながらその不思議な騎士(ナイト)と馬のペアをながめ、夢うつつで歌の悲しげな音楽に耳を傾けながら。
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