No.96

騎士はほこらしげに、鞍からぶら下がっているかぶとを見おろしました。「そうだよ。でも、これよりもっといいのを発明したことがある――おさとうのかかったパンみたいなやつ。それをかぶっていると、馬から落ちても、それが直接地面にふれてる。だから、落ちる距離も すごく 短くてすんだわけ――でも、確かにそのかぶとそのものの中に落っこちる危険は確かにあってね。一度そういうことがあって――しかも最悪だったのは、ぼくがそこから出られる前に、もう一人の白の騎士(ナイト)がやってきて、それをかぶっちゃったんだ。じぶんのかぶとだと思って」

 騎士はこれをずいぶんと荘厳な様子で申しますので、アリスは死んでも笑っちゃいけないと思いました。でも、ついつい声がふるえてしまいます。「そしたら、相手の方をけがさせちゃったんじゃないですか? だってその方の頭のてっぺんにいたんですもの」

[イラスト: 頭からみぞにつっこんだ白騎士]

 「もちろん、けとばさなきゃダメだった」騎士はもう真剣そのものです。「そしたらあいつもかぶとを脱いでくれたんだけど――でも、ぼくを出してくれるのに、もう何時間もかかっちゃってね。もうはまりかたがきつかったもので――お酢のにおいみたいにね」

 「でもそれって、『きつい』がちがうでしょう」アリスは反論します。

 騎士は首を横にふりました。「ぼくの場合は、いろんなきつさだったんだよ、これは保証してもいい!」こう言いながら、ちょっと興奮して両手をあげ、そしてすぐさま鞍から転げて、深いみぞに頭からつっこんでしまいました。

 アリスはみぞの縁にかけていって、騎士を捜してみました。いまの落下にはちょっと驚かされたのです。というのも、その前のしばらくは、なかなか上手に馬にのったままになっていたし、 こんどこそは けがをしたんじゃないか、と思ってしまったからです。でも、見えるのは騎士の足の裏だけでしたが、でもいつもの調子で騎士がしゃべっているのがきこえて、アリスはとてもほっとしました。「いろんなきつさ、ね。でもあいつも他の人のかぶとをかぶるなんて、不注意もはなはだしい――それも中に人が入ってるのをかぶるなんて」

 


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