[イラスト: 騎士は前に転げ落ちます] 馬がとまるたんびに(というのはかなりしょっちゅうでした)、騎士は前に転げ落ちます。そして馬が動き出すたびに(馬はこれを、かなり急にやるのでした)騎士はうしろに転げ落ちます。それ以外は、そこそこ馬に乗っていられるのですが、ただしクセなのか、なんだかんだと横に転がり落ちるのです。しかも転がり落ちてくるのは、たいがいアリスの歩いている側だったので、アリスはじきに、 あんまり 馬の近くを歩きすぎるのは、やめといたほうがいいな、とわかったのでした。 「馬に乗るの、どうもあんまり練習なさってないんですね」五回目にころげおちた騎士を、馬上に助け上げながら、アリスはついに思い切って言ってみました。 騎士はこう言われてとってもびっくりしたようすで、それにちょっとムッとしたようです。「どうしてそんなふうに思うね?」そういいながら騎士は鞍になんとか戻り、その間片手でアリスの髪の毛をつかんで、反対側に落ちないようにしていました。 「だって、いっぱい練習した人は、そんなにしょっちゅう落っこちたりしないもの」 「ぼくだって、たっぷり練習はしてる」と騎士(ナイト)はとっても重々しく申しました。「それはもうたっぷりとね!」 アリスは「まあそうですか」以上のせりふを思いつきませんでしたが、これをなるべく心をこめて申しました。二人はその後ちょっとばかりだまって進みました。騎士(ナイト)は目を閉じてぶつぶつつぶやいていますし、アリスは、いつまた騎士(ナイト)が転げ落ちるかと、ハラハラしながら見守っています。 突然、騎士は右腕をふりまわしながら大声を張り上げました。「乗馬の極意というものはだね、こうして――」そこで文章は、始まったのと同じくらいいきなり終わりました。というのも騎士は、まさにアリスの道筋の真ん前に、頭から思いっきりころげ落ちたからです。こんどはアリスもかなりおびえました。そして騎士を助け起こしならが、心配そうに申します。「骨、折れたりしてませんよね?」 「あえて言うほどのものは一つも」と騎士は、二三本なら折ってもかまわないとでも言いたげに申しました。「乗馬の極意というのはだね、さっきぼくが言いかけていたように――こう、バランスをしっかり保つことなんだ。ほら、こんなふうに――」 騎士は手綱を放して、両手をひろげて見せ、アリスに言わんとするところを示そうとします。そしてこんどは、背中からベタッと、馬の脚の間に落っこちてしまいました。 「練習ならたっぷり!」アリスに立ちあがらせてもらながらも、騎士は繰り返し続けました。「練習ならたっぷり!」
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