No.85

 「なんか言ったらどうだい!」とヘイヤがいらいらして叫びました。でもボウシャはパンを食べてお茶をもっと飲んだだけでした。

 「なんとか言わんか、え!」と王さまが叫びました。「あやつらのけんかはどんな具合じゃ?」

 ボウシャは目を白黒させてがんばって、バタつきパンの大きなかけらを飲み込みました。そしてのどをつまらせながらこう言います。「なかなかうまいこと運んでますがな。どっちも八十七回くらいダウンしてまっせ」

 「じゃあ、もうすぐ白パンや黒パンを持ってくるのかしら?」アリスは勇気を出してきいてみました。

 「もう用意してありますがな」とボウシャ。「あっしがいま喰ってますのも、その一切れでさぁね」

 ちょうどこのとき、けんかに間が入って、ライオンと一角獣(ユニコーン)はハァハァいいながらすわりこむ一方で、王さまが「おやつタイム十分間!」と宣言いたしました。ヘイヤとボウシャはすぐにはたらきだし、白パン、黒パンののったお盆を運んで回ります。アリスも一切れ試してみましたが、 すっごく 乾いていました。

 「きょうはもう、けんかしないであろうと思うのだがな。太鼓を始めるように命令を伝えてまいれ」と王さまはボウシャに申しました。ボウシャは、バッタみたいにぴょんぴょんはずみながら、出かけていきました。

 一分かそこら、アリスはだまってボウシャを見送りながら立っていました。急に、パッと元気になりました。「見て、見て!」と熱心に指さします。「白の女王さまが国を横切って走ってる! あっちから森をつっきって、飛び出してきたわ――女王さまって、ホントにすごく速く走れるのねぇ!」


< back = next >
 < 目次 >