No.83

  「ないしょ声で」と伝令は、口元にラッパみたいに手をあてて王さまの耳に近寄ろうと背伸びします。アリスはがっかりしました。アリスもニュースがききたかったからです。でも、ないしょ声を出すかわりに、ヘイヤは思いっきりどなったのでした。「あいつら、またやりあってますぜ!」

 「いまのの どこが ないしょ声じゃ!」とかわいそうな王さまは跳び上がって身ぶるいいたします。「こんどいまみたいな真似をしおったら、貴様をバターにしてくれる! まったく、頭の中でガンガンこだまして地震みたいじゃった!」

 「ずいぶん小さな地震だったのねえ!」とアリスは思いましたが、勇気を出してきいてみました。「あいつらってだれですか?」

 「だれって、ライオンと一角獣(ユニコーン)に決まっとろうが」と王さま。

 「王冠めぐって大げんか、ですか?」

 「そうとも、まったくそのとおり。そしてこいつの何とも言えんオチはだな、その王冠が、結局ずっとわしのものだってことなんだよ! ちょいと出かけて見物してやろう」と王さま。そして一同は、トコトコとかけだし、アリスは走りながら、あの古い歌の歌詞を頭のなかでくりかえしていたのでした――

「ライオンと一角獣(ユニコーン)
    王冠めぐって大げんか
一角獣(ユニコーン)はライオンに
    街中随所(ずいしょ)でボコボコに
両者に白パンやる人や
    黒パンあげる人もおり
すももケーキをあげる人もいて
    太鼓で街からたたき出す」

 「勝った――ほうが――王冠を――もらうんですか?」とアリスはがんばって聞いてみましたが、走っているせいで、かなり息がきれていました。

 「いやいや、まさか! どっからそんな途方もないことを!」と王さま。


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