No.65

「カニなんて、かわいい! ぜひつかまえたいな」とアリスは思いました。

 「羽根(フェザー)って言ったのが聞こえなかったのかい?」とヒツジは怒って、編み針をさらに大量に増やしました。

[イラスト: ヒツジとボート]

 「聞こえましたと。ずいぶん何度もおっしゃったし――それにとっても大声で。ねえ、そのカニって、どこにいるんですか?」

 「水の中に決まってるでしょうが!:とヒツジは、手がいっぱいだったもので髪の毛に編み針を刺しています。「だから羽根(フェザー)って言ってるのに!」

 アリスはちょっとムッとしました。「いったいどうしてさっきから『羽根(フェザー)』ばっかりおっしゃるんですか? わたし、鳥じゃありません!」

 「鳥だよ。それもちっちゃなガチョウ」

 これでアリスはちょっと腹が立ったのでしばらくは会話がありませんでしたが、その間にもボートはゆっくりとただよい、ときどき水草の茂みの中(こうなると、オールは水の中でびくともしなくなり、いつにも増してひどいことになります)、そして時には樹の下を通りますが、いつでも頭上には、同じ背の高い川岸がそびえているのでした。

 「まあお願い! トウシンソウが咲いてるわ!」とアリスは、いきなり喜びにあふれて叫びました。「ホントにトウシンソウなんだ――それも、 すっごい きれい!」

 「その件でわたしに『お願い』されたって知りませんよ」とヒツジは編み物から目もあげません。「わたしが植えたもんじゃないし、それをどかす気もありませんからね」

 「ええ、そうだけど、つまり――お願いですから、ちょっととまって少しつんでもいいですか? ボートをしばらく止めましょうよ」とアリスはお願いします。

 


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