No.64

 でもこの計画でさえ失敗してしまいました。その「物体」は、思いっきり静かに天井を通り抜けてしまったのです。もう何度もやりつけている、とでもいわんばかりに。

 「あんたは子どもか、それともコマかね?」とヒツジは、編み針をさらに一組み手にとりました。「そんな具合にくるくる回ってたら、そのうちこっちの目までまわってしまうよ」いまやヒツジは、編み針を十四組同時に使っています。アリスは感心しきって、思わずヒツジをまじまじと見つめてしまいました。

 「 あんなに いっぱいで、どうして編めるんだろう」と不思議に思った子どもは考えます。「しかも一分ごとにどんどん増えていって、もうヤマアラシみたい!」

 「ボートはこげる?」とヒツジは、編み針を一組こちらに手渡しながらききました。

 「ええちょっとなら――でも地面の上じゃなくて――それと編み針でこぐのも――」と言いかけたとき、編み針が手の中でオールに変わり、気がつくと二人は小さなボートに乗って、岸辺の間をただよっているのでした。というわけで、アリスとしては精一杯にこぐしかありませんでした。

 「羽根(フェザー)!」とヒツジは、またもや編み針を追加しながら叫びます。

訳注:これはいまの英米人だって知らない人がふつうだから、説明しておこう。これはボートを漕ぐときに、オールをあまり深く水につっこまずに、表面に近いところで水平に動かせ、という意味で、ボート業界のかけごえなんだって。

 これは返事が必要なせりふには聞こえませんでしたので、アリスはなにも言わずに船を出しました。この水って、なんかすごく変だわ、と思いました。というのも、しょっちゅうオールがつかえて、ほとんど出てこなくなってばかりいるのです。

 「羽根(フェザー)! 羽根(フェザー)! その調子だと、そのうちもろにカニをつかまえちゃうよ」

訳注:これもボート業界用語。水にオールがとられて手からはずれ、握りがそのまま胸を強打することなんだって。


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