No.61

「でも、どうしていま叫ばないんですか?」アリスは耳をふさごうと、手をあげたままききました。

 「だって、叫ぶのはさっきたっぷりやったじゃござませんの。いまさらやりなおすこともありませんでしょう」と女王さま。

 そろそろ明るくなってきました。「カラスは飛んでっちゃったみたいですね。行っちゃってくれて、ホントにうれしいな。夜になってきたのかと思った」とアリス。

 「 わたしも そんなふうにうれしくなれたらよいんでございますけどねえ!」と女王さま。「でも、やりかたを失念してしまったものでして。あなたはこの森に住んで、好きなときにうれしくなれて、さぞかし幸せなんでございましょうねえ!」

 「でも、ここはとても すごく さびしいんです」とアリスはゆううつな声で言いました。そしてひとりぼっちなのを考えると、おっきな涙が二つ、ほっぺたをつたって流れ落ちました。

 「あらあら、ちょっとおよしなさいって!」とあわれな女王さまは、困り果てて手をもじもじさせます。「自分がどんなにえらい子か、考えてごらんなさいな。きょう、どれほど遠くまできたか考えてごらんなさいな。いま何時か考えてごらんなさいな。なんでもいいから考えてごらんなさいな、なんでもいいから、とにかく泣くのはおよしなさいって!」

 アリスは泣きながらも、これには笑わずにはいられませんでした。「陛下は、ものを考えると泣かずにいられるんですか?」

 「それがやり方なんですよ」と女王さまは、すごく確信をこめて申しました。「二つのことを同時にできる人はいませんからね。じゃあまず、あなたの歳から考えてみましょうか――あなた、おいくつ?」

 「ちょうど七歳半です」

 「『ちょうど』はなくてよろしい。それがなくても、十分に信じられますよ。さて、じゃああなたに信じられるものをあげましょうか。わたくしの年齢は正確に百一歳五ヶ月と一日なんでございますよ」

 「 それは 信じられないわ!」とアリス。


< back = next >
 < 目次 >