No.60

 「悪いことをしたときだけ」とアリス。

 「そして罰を受けて、いい子におなりになったわけでしょう!」と女王さまは勝ち誇ったように言います。

 「ええ、そうですけれど、でも罰を受けるようなことを最初にやったわけじゃないですか。ぜんぜん話がちがいますよ」とアリス。

 「でも、そういうことを やっていなかったなら 、もっとよろしかったわけですわよねえ。ねええ! もっとずっとよろしかったですわよねええええ!」女王さまの声は、「ねえ」と言うごとにかん高くなって、最後はキイキイ声にまでなってしまいました。

 アリスは「それってどっかおかしい――」と言いかけましたが、そのとき女王さまがすさまじい叫び声をあげだして、中断するしかありませんでした。「あいたたた、いたたた、いたた!」と女王さまは叫びながら、手を振り落としたいかのように、猛然とふっています。「指から血が出てる! いたたたた、いたたた、あいたたた、いたた!」

 その金切り声は、蒸気機関車の汽笛そっくりで、アリスは両手で耳をふさいでしまいました。そして、口をはさめる間ができるとすぐに言いました。

 「 いったいぜんたい どうしちゃったんですか? 指を刺したんですか?」

 「 まだ さしてはおりませんことよ。でももうすぐ――いたたた、あいたた、いたた!」

 「いつ刺すつもりなんですか」とききながらもアリスはついつい笑い出したい気分でした。

 女王さまはうめきます。「こんどショールを止めるときですよ。ブローチがポロッとはずれるんでございます。あら、あらら!」そう言う間にブローチがパチンとはずれて、女王さまはあわててそれをつかみ、とめなおそうとしました。

 「気をつけて! 持ち方が曲がってます!」とアリスは叫びながらブローチのほうに手を伸ばしました。でも手遅れです。ピンがずれて、女王さまは指を刺してしまいました。

 「いまののおかげで血が出たわけでございますわね。これでここでの物事の起こり方がおわかりになったでしょう」と女王さまはにっこりしました。


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