No.42

とかなんとか、いろいろぶつぶつ言っているうちに、森にやってきました。とてもうっそうとして涼しそうです。「なにはともあれ、とっても気持ちよさそうではあるわね」とアリスは木々の下に入りました。「こんなに暑かったところから、こんなひんやりした――ひんやりした なんだっけ ?」とアリスは、ことばが出てこないのにいささか驚いて続けました。「つまりひんやりした――この――この、 これの 下、なんだけど!」とアリスは、手を木の幹に触れました。「これって、なんて自称してるんだろう。まちがいなく、名前がないんだと思うわ――絶対まちがいなくないわ!」

 アリスはしばらくだまって考えこみました。それから急にしゃべりだしました。「じゃあほんとうに起きたんだわ! それじゃあ、あたしはだれ? 思い出したいわ、思い出せるものなら! 絶対がんばって思い出すわ」でもいくらがんばっても大した役にはたちません。そしてさんざん首をひねったあげくに、アリスがやっと言えたのはこれだけでした。「『リ』よ、ぜったいまちがいなく『リ』で始まったはず!」

[イラスト: 子鹿とアリス]

ちょうど、子鹿がふらりとやってきました。おっきなやさしい目でアリスを見つめましたが、ぜんぜんこわがっていないようです。「おいで! おいで!」とアリスは手をのばしてなでようとしました。でもそれはちょっととびのいて、またじっと立ってアリスを見つめています。

 「きみ、なんていうの?」子鹿はやっと言いました。とってもやわらかくて甘い声でした!

 「それがわかればねえ!」とアリスは思いました。そして、ちょっと悲しそうにこう答えました。「いまはなにもないの」

 「それじゃダメだよ。もっとよく考えて」とそれは言いました。

 考えましたが、なにも浮かびません。アリスはおずおずとたずねます。「お願い、あなたはなんていうの、教えてよ。そしたらこっちも、思いだしやすくなるかも」

 「もうちょっと先までいったら教えてあげる。 ここでは 思い出せないの」と子鹿。

 

 


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