そこで両者は、森の中をいっしょに歩いていきました。アリスは子鹿のやわらかい首に、愛しげに腕をまわしています。でもやがて、また開けた野原にやってきました。すると子鹿はとつぜん空中に飛び上がって、アリスの腕をふりほどきました。「ぼくは子鹿だ!」と喜びの声をあげます。「そして、わあどうしよう! きみは人間の子供じゃないか!」その美しい茶色の目に、いきなり警戒の色が浮かんで、つぎのしゅんかんには全速力でかけ去ってしまいました。 アリスはそれを見送って立ちつくしていました。こんなに急に、愛しい小さな旅仲間を失って、ほとんど泣きそうです。「でも、もう自分の名前がわかるわ。それは ちょっとは 安心だな。アリス――アリス――もう二度とわすれないわ。さて、あの道しるべのどっちにしたがったらいいのかな?」 これはとっても答えやすい質問でした。森をぬける道は一つしかなかったし、二つの道しるべは、どっちも同じ方向を指していたからです。「道が分かれて、道しるべがそれぞれ別の方向を指すようになったら、かたがつくでしょう」とアリスはつぶやきました。 でも、どうやらそんなことにはならないようです。アリスはひたすら前進して、ずいぶん歩いたのですが、道が分かれるたびに道しるべが二つあって、どっちも同じ方向を指しているのです。一つは トゥィードルダムのおうち方面 → と書かれていて、もう一つは トゥィードルディーのおうち方面 → と書かれています。 「これってどう考えても、二人とも 同じ 家にすんでるんだわ! どうしていままで思いつかなかったのかしら――でも長居するわけにはいかないわね。ちょっといって、『ごめんください』と言って、森から出る道をきくだけね。暗くなる前に八升目につかないと!」そこでアリスはさらにぶらぶらとすすみ、ぶつぶつ独り言を言っていましたが、急な曲がり角を曲がると、ちびでデブな二人組に出くわしました。いきなり出くわしたので、思わず飛びのいてしまいましたが、次のしゅんかんには気をとりなおして、これぞまさしく――
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