No.37

  窓から首をつきだしたさっきのロバが、静かに頭を戻して言いました。「小川を飛び越えなきゃならないだけですよ」。みんな、これで納得したようでしたが、アリスはそもそも列車が飛ぶということで、ちょっと心配になりました。「でも、それで四升目に行けるわ、それだけはありがたいわね!」とアリスはつぶやきました。つぎのしゅんかん、客車が宙にまっすぐ飛び上がるのが感じられて、こわくなったアリスは、いちばん手近なものを握りしめました。それはヤギのひげでした。

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 でもさわったとたんにひげはとけてしまうようで、気がつくとアリスは木の下に静かにすわっているのでした――一方でブヨ(これまで話をしていたのはこの昆虫だったのです)はアリスのすぐ上の小枝でバランスをとって、羽でアリスをあおいでいました。

 たしかに、 すっごく おっきなブヨではありました。「ニワトリくらいあるわ」とアリスは思います。でも、いままでずっと話をしてきたもので、今さらこわくなったりもしませんでした。

 「――だったらきみは、昆虫は みんな きらいなの?」とブヨは、なにごともなかったかのように、静かにつづけました。

 「しゃべれると昆虫も好きよ。 あたしが きたところだと、話す昆虫なんかぜんぜんいないもん」

 「どういう昆虫に熱狂するの、きみのきたところだと?」とブヨがたずねます。

 「あたし、昆虫に 熱狂 したりはしないわよ。ちょっとこわいんだもの――特に大きいのは。でも、名前なら少しはわかるけど」とアリスは説明します。

 「もちろん昆虫は、名前を呼ばれたら答えるんだよね?」とブヨはなにげなく言います。

[イラスト: 木馬ハエ]

 


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