No.38

 「あたしはそういうおぼえはないけど」

 「呼ばれて答えないんなら、その子たちは名前なんかあってもしょうがないじゃないの」とブヨ。

 「そりゃ 昆虫には 役に立たないだろうけど、でも名前をつけた人間には役にたつんだと思うな。だってそうでなきゃ、なぜそもそもいろんなものに名前なんかついてるのよ」とアリス。

 「わかんない。それに、下の方の森では、名前がないんだよ――だけど昆虫の一覧を続けてよ。時間がもったいないし」

 「そうねぇ、まずウマバエでしょ」とアリスは指折り数えながら名前を挙げはじめました。

 「はいはい、あの茂みの半ばくらいのところを見てもらえば、木馬ハエがいるでしょう。全身が木だけでできてて、枝から枝へギシギシ揺れながら動くんだよ」とブヨ。

 「なにを食べてるの?」アリスは知りたくてたまりませんでした。

 「樹液とおがくず。先を続けてよ」とブヨ。

 アリスは木馬バエを興味津々(きょうみしんしん)で見上げました。ペンキ塗り立てみたいね、と思いました。色鮮やかでベタベタしてそうだったからです。でも、先を続けました。

 「それと、ドラゴンフライ(とんぼ)ね」


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