No.32

 「いえ、結構です。一つでもう じゅうぶん です!」

 「のどの乾きはおさまったであろうが?」と女王さま。

 アリスはどう答えていいかわかりませんでしたが、ありがたいことに女王さまはこちらの返事をまたずに、しゃべりつづけました。「三ヤード目の終わりにきたら、わらわはそれまでのを繰り返すとしよう――おまえが忘れるといけないからね。そして四の終わりでは、ごきげんようを言おうぞ。それから五の終わりで、わらわは去る!」

 この頃には女王さまも、ペグをぜんぶ差しこみ終わって、その女王さまが木のところに戻ってくるのを、アリスは興味津々(きょうみしんしん)で見守りました。女王さまは、ゆっくりとペグの列にそって歩きだします。

 二ヤードのペグまでくると、女王さまはふりかえってこう言いました。「ポーンは最初に動くときだけは二駒進めるのは知ってるね。だから、三升目は とっても 高速に通り抜けることになる――たぶん 鉄道を使う ことになるはずだよ――そしてあっという間に四升目だ。その升は、 トゥィードルダムとトゥィードルディーの升 だね――五番目は ほとんど水 で――六番目のは ハンプティ・ダンプティのもの だわね――でもおまえ、ウンとかスンとか言ったらどうだえ?」

 「あ――あの、言わなきゃいけないとはぞんじませんで――いまですか?」アリスはまだ息をきらしています。

 「おまえはね、『まあいろいろ教えてくださいまして、まことにありがとうございます』と言う べき ではあったんじゃが――が、まあ言ったことにしておいてやろう――七升目は森ばっかりだね――でも 騎士(ナイト)が道案内してくれるじゃろ――そして八升目では われらとともに 女王(クイーン)になって 、そうしたら ずっと宴会 で楽しかろうて!」アリスは立ちあがって会釈をすると、また腰をおろしました。

 次のペグで女王さまはまたふりかえり、こんどはこう言いました。「 なにかを指すことばがわからなくなったら 、 フランス語でしゃべってみるように ――歩く時は、内股になってはいけません――そして自分がだれだか忘れないこと!」女王さまは、こんどはアリスが会釈するのを待たず、急いで次のペグまで進むと、いっしゅんだけ振り返って「ごきげんよう」と言ってから、最後のペグに急ぎました。

 それがどういうふうに起こったのか、アリスにはまるでわかりませんでしたが、最後のペグのところにきたちょうどそのしゅんかん、女王さまはいなくなっていました。空中にかき消えたのか、それともすごい速さで森にかけ込んだのか(「確かに、すごく走るのが速いのは事実ですもんねえ」とアリスは思いました)、かいもく見当もつきませんでしたが、とにかく、女王さまは姿を消し、そしてアリスは自分がポーンで、そろそろ動く順番だというのを思いだしはじめたのでした。

 


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