No.33 第 3 章 鏡の国の昆虫たち もちろん真っ先にやったのは、これから旅する国をおおざっぱに見渡すことでした。「地理のお勉強ととってもよく似てるわよね」とアリスは、もうちょっと遠くまで見ようとして、つま先立ちになりました。「主要な河川――ぜんぜんなし。主要な山――あたしが立ってるのが唯一の山だけれど、でも別に名前はなさそうだし。主要な街――あらあら、下でハチミツを集めてるあの生き物、 いったいぜんたい なんだろ? どう見てもハチじゃないわ――一キロ先から見えるハチなんていないもんね――」そしてしばらくアリスはだまって立ったまま、花の中を飛び回っているその生き物の一匹をながめていました。吸い口を花につっこんだりしています。「まるでふつうのハチみたい」とアリスは思いました。 でも、これはどう見てもふつうのハチなんかじゃありませんでした。むしろ、ゾウでした――アリスもじきにこれがわかりましたが、でも気がついて思わず息をのんでしまいました。「じゃああのお花って、すさまじい大きさにちがいないわ!」とアリスは続いて思いました。「小屋の屋根をとっぱらって、くきをくっつけたみたいな――それに、ハチミツの量もすごいはずよ! ちょっと下りてってみようかしら――いえ、 いまは ダメだわ」と、いまにも丘を駆け下りそうになった自分を制します。そして、急にしりごみしたので、なんとかいいわけを考えようとしました。「追い払うのに、すごく長い枝がないと、あんなのの中に行けないわよね――そしてみんなが、散歩はいかがでしたと聞いたら、すごく楽しいだろうな。こう言うの――『ああ、まあまあでしたわ――』」(そしてここでお気に入りの、頭をちょっとはねあげるポーズ)「『ただいささかほこりっぽくて暑かったのと、それにゾウにいっぱいたかられちゃったのがどうも!』」 しばらく考えてからアリスは言いました。「反対側におりようっと。ゾウはあとで訪ねてみてもいいし。それに、三升目に行きたくてたまらないもの!」 そしてこの口実で、アリスは丘をかけおりて、最初の小川六本を飛び越えたのでした。 * * * * * *
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