No.30

  あとから考えてみても、どうやってそれが始まったのか、アリスにはさっぱりわかりませんでした。おもいだせるのは、二人が手をつないで走っていて、女王さまがすごい勢いだったもので、アリスはついていくのがやっとだったことだけです。そしてそれでも女王さまはたえず「もっと速く! もっと!」と叫びつづけて、でもアリスは、 絶対にこれ以上は 速く走れないと思い、でも息をきらしすぎていて、そんなことが口にだせる状態ではありませんでした。

[イラスト: じっとしているために走る]

 なかでもいちばん不思議だったのは、木やまわりのその他のものが、まったく場所を変えなかったことです。どんなに速く走っても、なにも通り過ぎたりしないようでした。「ほかのものも、あたしたちといっしょに動いてるのかしら?」とかわいそうな混乱したアリスは思いました。そして女王さまはアリスの考えていることが見当ついたようです。「もっと速く! 口をきこうとするんじゃない!」と叫んだからです。

 アリスとしても、 口をきく つもりはまるっきりありません。とにかく息がきれてきて、もう二度としゃべれないんじゃないかと思ったくらいです。そしてそれなのに女王さまは「もっと速く! もっと!」と叫びつづけて、アリスを引きずっていきます。「もうそろそろ着く頃でしょうか?」とアリスは、やっとの思いでぜいぜいと言いました。

 「そろそろ、だと!」と女王さまが繰り返します。「そんなとこ、もう十分も前に通り過ぎたよ! もっと速く!」そして二人はしばらくだまって走り続け、アリスの耳では風がうなり、ほとんど髪が吹き飛ばされそうだわ、とアリスは思いました。

 「さあさあ、もっと速く! もっと!」と女王さまがさけび、二人はあまりに速く走ったので、最後はまるで宙を切るように進んでいて、足がほとんど地面につかない感じです。そして急に、ちょうどアリスが疲れきってしまった頃に二人は泊まり、アリスは地面にすわりこんで、息をきらしてクラクラしていました。


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