No.17

答えて女王さまいわく「あなた、ひげなんかございませんでしょうに」  王さまはつづけます。「あのしゅんかんの恐怖といったら、わしゃ決して、決し て忘れやせんぞ!」  「でも忘れますとも、ちゃんとメモっておかないと」と女王さま。

[イラスト: バランスの悪い白騎士]

アリスが興味津々(きょうみしんしん)で見ていると、王さまはすごくでっかい メモ帳をポケットから取りだして、書きはじめました。アリスはパッとひらめい て、王さまの肩ごしにかなりつきだしていた鉛筆のはしっこをつかまえると、王さ まのかわりに書きはじめました。  かわいそうな王さまは、合点がいかないようすであまりうれしそうではありませ ん。しばらく何も言わずに、鉛筆と格闘していました。が、アリスが王さまよりも 強すぎたので、ついに王さまは息がきれてしまいました。「おまえ、わしゃどうあ っても、もっと細い鉛筆を手に入れんと。こいつはまるっきり言うことをきかん。 わしの思ってもいないようなことをやたらに書きよる――」  「というとどういうたぐいのこと?」と女王さまは帳面をのぞきこみました(そ こにアリスが書いたのは「白の騎士(ナイト)が火かき棒をすべりおりています。 バランスを取るのがとっても下手です」だった)。「これはあなたの気持ちのメモ じゃありませんわね!」  テーブルの上、アリスのすぐ近くには本がころがっていました。そして白の王さ ま(キング)をすわってながめながら(というのも、まだちょっとは王さまのこと が心配で、また気絶したときのために、すぐにでもインキをかけられるようにはし てあったから)、アリスはページをめくって読めるところをさがしてみました。 「――だって、ぜんぶあたしの知らないへんなことばで書いてあるんだもん」とア リスはつぶやきます。


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