No.16

  あとでアリスが話してくれたところでは、王さまは自分が目に見えない手で空中 に持ち上げられて、ほこりを払われているときの王さまの顔つきといったら、生ま れてこのかた見たこともないようなものだったそうです。叫びだすにはびっくりし すぎていましたが、目と口がどんどんあんぐりしてきて、どんどんまん丸くなって いって、アリスは笑って手がふるえてしまい、王さまをあやうく床に落としてしま うところでした。  「まあおねがいだから、そんな顔しないでちょうだい!」とアリスは、王さまに 聞こえないのも忘れて大声で言ってしまいました。「笑いすぎて、落としちゃいそ うだわ! それと、口をそんなにあんぐり開けないの! 灰がぜんぶ入っちゃうじ ゃない――よーし、これでなんとかきれいになったかな」とアリスは、王さまの髪 をなでつけて、テーブルの女王さまの横に置いてあげました。  王さまはすぐに背中からたおれこんで、まるで身動きせずに横たわっています。 そしてアリスは、自分のしでかしたことにちょっと驚いて、王さまにかける水がな いか、部屋の中をさがしまわりました。でも、インキのビンしか見つかりません。 そしてそれを持って戻ってきたら、もう王さまは回復したようで、女王さまとおび えたささやき声で話をしていました――ひそひそすぎて、アリスにもほとんど聞き 取れないくらいです。  王さまはこう言っていました。「いやまったく、わしはまちがいなく、ヒゲの先 の先っぽまで凍りつく思いであったぞ!」


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