No.111

 とうとう赤の女王が口を開きました。「もうスープと魚は下げられてしまったぞえ。ひざ肉を持て!」すると給仕たちが、マトンの脚をアリスの前に置きました。アリスは心配そうにそれをながめます。関節肉を切り分けるのなんて、これが初めてだったからです。赤の女王が申します。

[イラスト: マトンです、お見知りおきを]

 「引っ込み思案のようじゃな。マトンの脚に紹介してつかわそう。アリス、こちらマトン。マトン、こちらはアリス」マトンの脚は皿の中で立ち上がり、アリスに軽くおじぎをしました。アリスもおじぎを返しました。おびえるべきなのか、おもしろがるべきなのか、見当もつきません。

 「一切れお取りしましょうか」とアリスはナイフとフォークを手にとって女王二人を交互に見比べます。

 「まさか、何を申しておるか」と赤の女王さまがきっぱりと申しました。「紹介された相手を切るなんて、エチケットに違反しておるではないの。ひざ肉をお下げ!」すると給仕たちがそれを運び去り、かわりにおっきなすももプリンを持ってきました。

 アリスはいささかあわてて言いました。「プリンには紹介していただかないで結構ですから。そうでないと、晩ごはんが一口も食べられないでしょう。少しおとりしましょうか?」

 でも赤の女王さまは冷たい目つきでアリスをにらむと、うなるように申します。「プリン、こちらはアリス。アリス、こちらはプリン。プリンをお下げ!」そして給仕たちの下げかたがすばやすぎて、アリスはおじぎを返すひまもありませんでした。

 でも、命令を出すのが赤の女王さまだけというのは、アリスとしても納得がいきませんでしたので、試してみようと思って、アリスは叫びました。「給仕! プリンを戻してちょうだい!」そして、まるで手品みたいに、プリンがいっしゅんのうちに戻っていました。すごくおっきなプリンで、アリスとしてもマトンのときのように、 ちょっとは たじろがずには いられませんでしたが、でもいっしょうけんめいがんばって気持ち をおさえこんで、プリンを一切れ切ると、赤の女王さまに渡しました。

 「なんとまあ失礼千万!」とプリン。「あんたからわたしが一切れ切ったりしたら、どれほどお気に召すか知りたいもんだよ、このいきものめが!」


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