No.110

 このしゅんかんに、ドアがサッと開くと、かんだかい声がこんな歌を歌っているのが聞こえました:

「鏡の国にアリスが語る
『我が手には杓(しゃく)、頭上には王冠
鏡の国の生き物たちよ、なんであれ
紅白女王と我との晩餐(ばんさん)にくるがよい』

 そして何百もの声が合唱に加わりました:

「ではグラスを急いで満たそう
ボタンとふすまをテーブルにふりまき
コーヒーにはネコを入れ、紅茶にはネズミを――
そして女王アリスに三の三〇倍の歓迎を!」

 そして歓声のごちゃごちゃした騒音がきこえて、アリスは考えました。「三の三〇倍って九〇よね。だれが数えてるんだろう?」一分ほどしてまた静かになって、同じかんだかい声が次の歌を歌うのでした。

「『鏡の国の生き物たちよ、近う寄れ!』とアリス
『我が姿を見るは栄誉、聞くは幸甚
食事とお茶をともにするは誇りなり
紅白女王と我との晩餐(ばんさん)にくるがよい』」

 そしてまたコーラスが続きます:――

「ではグラスに糖蜜(とうみつ)とインクを満たし
その他飲むに快いもの何でも満たし
サイダーを砂に、ワインをウールにまぜ――
そして女王アリスに九の九〇倍の歓迎を!」

 「九の九〇倍! そんなのいつまでたっても終わらないわ。いますぐ入ったほうがいいわね――」とアリスは思いました。そして入ったしゅんかんに、みんな死んだように、しーんとしずまりかえってしまいました。

 アリスは大きな広間を歩いていきましたが、ずっと不安そうにテーブルに沿ってながめていきました。お客は全部で五〇人ほど、それもいろいろです。動物もいれば鳥もいて、中には花もいくつか混じっています。「招待される前にでてきてくれてよかったわ。あたしだったら、だれを招待したらいいかさっぱり見当つかなかったでしょうから!」

 テーブルのいちばん上座には、いすが三つありました。赤と白の女王さまがそのうち二つにすわっていましたが、真ん中のがあいています。アリスは、だれもなにも言わないのでちょっとまごまごしながらそこにすわりました。だれかしゃべらないかな、と思っています。


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