No.109

 ちょうどそのとき、ドアが細く開いて、長いくちばしの生き物がいっしゅん頭をつきだし「再来週まではだれも入れませんよ!」と言って、またドアをバタンと閉めてしまいました。

 アリスはながいこと、ノックしたり呼び鈴を鳴らしたりしていましたが、何も起きません。やっと、木の下にすわっていたとっても年寄りのカエルが、立ち上がってゆっくりよたよたと、アリスのほうにやってきました。明るい黄色の服をきて、巨大なブーツをはいています。そして低いしゃがれたささやき声で申しました。

 「やれやれ、こんどはなにごとですかいな?」

 アリスはふりかえりました。だれでもいいからやつあたりしたい気分です。「このドアに応えるのは、どの召使いの仕事ですか! その者はどこにおりますか!」とアリスは、怒った調子で申しました。

[イラスト: ドアに応えるのはだれの仕事?]

 「ドアって、どのぉ?」とカエル。

 アリスはカエルのゆっくりまのびしたしゃべりかたでいらいらして、足を踏みならしたい気分でした。「 このドアに 決まっているでしょうが!」

 カエルはそのおっきなどんよりした目で、一分かそこら、そのドアをながめていました。それから近くによって、親指でこすってみて、ペンキが落ちないか試しているようでした。それからアリスのほうを向きます。

 「ドアに答えるって? こいつが何を質問してましたかね?」声がしゃがれすぎて、アリスがほとんど聞き取れないほどです。

 「なにを言ってるんだかさっぱり」とアリス。

 「あっしゃふつうにことばをしゃべっちょるでしょうが、え? それともあんた、つんぼ? このドアが何か質問しましたかいな?」とカエルは続けます。

 「何も! ノックしてたのよ!」とアリスはいらいらして申します。

 「それやっちゃあいかんよ――それはいかんよ――機嫌損ねちまうもんね」とつぶやいて、カエルはドアに歩み寄ると、でかい足でドアを一発けとばしました。「あんたが手をださなけりゃ、こっちも手を出さんでくれるんだから」と、またよたよた木のところに戻ります。

 


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