「『あっちょんぶりけ』なんて日本語じゃありません」アリスは重々しく答えました。 「だれも日本語だなんて申してはおらぬ」と赤の女王さま。 アリスは、こんどこそこの面倒から逃げ道を見つけたと思いました。「『あっちょんぶりけ』が何語か教えてくださいましたら、それをフランス語で言うとどうなるか申しますけど!」と勝ち誇って申します。 でも赤の女王さまは、ちょっとツンとした様子で身を引いてこう申しました。「女王たるもの、取引などはせぬ」 「女王たるもの、質問もしないでくれたらいいのに」とアリスは思いました。 白の女王さまは、心配そうなようすです。「もう口論はよしましょうよ。稲妻の原因はなぁに?」 アリスは、これは絶対確実にわかってるわと思ったので、きっぱりと答えました。「稲妻の原因は雷で――あ、ちがった! いまのは逆でした!」と、あわてて訂正します。 「訂正には手遅れだわい。おまえが何か言ったら、それはもう確定して、その結果を受け入れるしかないのじゃ」と赤の女王さま。 「それで思い出しましたけれど――」と白の女王さまは目を伏せて不安そうに、手をにぎりしめたり離したりしています。「こないだの火曜日に、すごい雷雨がございましてねえ――というか、こないだの火曜日の一群の一つで、ということですけど」 アリスにはちんぷんかんぷんでした。「 あたしの 国では、一日は一度に一つずつしかないんですけれど」 赤の女王さまが申します。「それはなんとも貧相でうすっぺらいやり方じゃの。さて ここでは 、昼も夜もたいがいは一度に二つ三つ同時にこなして、冬になるとときには、最高で五夜くらいまとめてこなすね――もちろん暖をとるためじゃが」 「五夜まとめてとると、一夜よりあったかいんですか?」アリスはあえてたずねました。「五倍あったかじゃ、とうぜんであろう」 「でもその同じ規則によると、五倍 寒く なるわけで――」 「まさにその通り! 五倍あったかで、しかも五倍寒い――ちょうど、わらわがおまえより五倍裕福で、しかも五倍賢いのと同じじゃ!」と赤の女王は叫びます。
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