No.107

 アリスはため息をついて降参しました。「まさしく、答えのないなぞなぞみたいだわ!」と思って。

 「それ、ハンプティ・ダンプティも見たんですよ」と白の女王さまは小さい声で、まるで独り言みたいに続けました。「 コルク抜きを手にドアにやってきて―― 」

 「そやつ、望みはなんじゃ?」と赤の女王さま。

 白の女王さまは続けます。「 どうしても 入ってくると申しまして、というのもカバを探しているとか。さて、ことの次第を申しますと、そんなものは家の中にはおりませんでね、その朝は」

 「いつもはいるんですか?」アリスはびっくりした口調でききました。

 「ええ、まあ木曜だけですけどね」と女王さま。

 「あたし、ハンプティ・ダンプティの望みなら知ってます。お魚をこらしめたかったのよ、だって――」

 ここで白の女王さまがまた口を開きました。「とにかく ものすごい 雷雨でして、ものを考えることもできないくらい!」(「彼女の場合、もともと考えたりできぬたちでな」と赤の女王さま)「そして屋根が一部はずれてしまったんですのよ、そして雷がいっぱい家に入って参りましてねぇ――そしてこんなおっきなかたまりになって、部屋の中をころげまわりますんですの――テーブルとかいろいろひっくり返しまして――わたくし、もうおびえすぎて、自分の名前も思い出せなくなってしまったんですのよ!」

 「そんな事故の最中に、自分の名前を思い出そうなんて、そもそもやらないほうがいいな、だって何にも役にたたないじゃない!」とアリスは思いましたが、かわいそうな女王さまの気持ちを傷つけまいとして、これは口には出しませんでした。

 「陛下はこの方に寛大でなくてはなりませぬぞ。悪気はございませぬのじゃが、一般にいって、この方はまぬけなことを言わずにはいられんのじゃ」と赤の女王さまは、白の女王さまの片手をにぎり、やさしくなでながらアリスに申しました。

 白の女王さまはおずおずとした様子でアリスを見つめます。アリスとしても、なにか言った方がいいにちがいない、とは思いましたが、ここでは何も言うことを思いつきません。

 赤の女王さまは続けます。「もともとあんまり育ちはよくない方なのですじゃ。でも、この気だてのよさは驚くほど! 頭をなでてやってごらんなされ、すごく喜びますぞ!」でもこれは、さすがのアリスも勇気がありませんでした。

 「ちょっとの優しさ――それと髪を紙にくるんでやること――それでこの方はおどろくほど――」

 白の女王さまは深いため息をついて、頭をアリスの肩にもたせかけます。「もう とても 眠いですの」とうめきます。赤の女王さまが申しました。

 


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