No.101

  騎士(ナイト)は、バラッドの最後のせりふを歌い終えると、手綱をまとめて馬の首を、これまで来た道の方向に向かせました。「きみはあと数メートル行けばいいだけだよ。丘をおりて、あの小川を越えたら、そしたらきみは女王さまだ――でも、まずちょっと残って、ぼくを見送ってもらえないかな」指さした方向へ、アリスがいそいそと向き直ったのをみて、騎士(ナイト)はつけくわえました。「そんなに長くはかからないよ。待ってて、ぼくがあの曲がり角まできたら、ハンカチをふってくれるよね。そうしたら、ぼくも元気が出ると思うんだ」

 「もちろん見えなくなるまで待ちます。それと、こんなに遠くまできてくれてホントにありがとう――それとあの歌だけど――すごく気に入りました」とアリス。

 「そうだといいんだけど。でもきみ、思ったほど泣かなかったよね」と騎士(ナイト)は疑わしそうに申します。

 というわけで二人は握手して、騎士(ナイト)はゆっくりと森のなかへ馬を進めました。「単に見えなくなるまでなら、実はすぐかもね。どうせまた落っこちるだろうから」とアリスは、立って見送りながらつぶやきました。「ほーらまた! 例によって頭から! でも、馬にのりなおすのはかなり楽みたい――あんなにいろいろ馬にぶらさげてあるおかげだな――」こんな具合につぶやきながら、アリスはゆっくり歩み去る馬と、そして騎士(ナイト)が片方へ、そしてまた反対側へと転げ落ちるのをながめました。四回目か五回目に落ちた頃に曲がり角についたので、アリスはハンカチをふってあげて、そして騎士(ナイト)が見えなくなるまで待ったのでした。

[イラスト: それは黄金の王冠でした。]

 「あれで元気を出してくれたらいいんだけど」とつぶやきながら、アリスは身をひるがえして丘をかけおりました。「そしてこれが最後の小川、それで女王(クイーン)さまになるんだ! すっごく豪華なひびき!」ほんの数歩で、小川のふちまでやってきました。「ついに八升目!」と叫びながら、アリスは小川をとびこえ、

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 そしてあちこち小さな花壇のちらばった、コケのようにやわらかい芝生に転がって休みました。「ここまでこれてすごくうれしい! それと、この頭の上のものは いったい なに?」アリスはうろたえて声をあげてしまいました。頭に手をやると、なにかとっても重くて、頭にぐるっとぴったりはまったものがあったからです。

 「でも、そうやってこんなものが、あたしの知らないうちに頭にのっかれるのかしら?」とアリスはつぶやいてそれを持ち上げてはずし、ひざに載せて、いったいぜんたいそれがなんなのか見きわめようとしました。

 それは黄金の王冠でした。


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