No.57

 「チェシャにゃんこちゃん」とアリスは、ちょっとおずおずときりだしました。そういうよび名を気に入ってくれるかどうか、さっぱりわからなかったからです。でも、ねこはニヤニヤ笑いをもっとニッタリさせただけでした。「わーい、いまのところきげんがいいみたい」とアリスは思って、先をつづけました。「おねがい、教えてちょうだい、あたしはここからどっちへいったらいいのかしら」

 「それはかなり、あんたがどこへいきたいかによるなあ」とねこ。

 「どこでもいいんですけど――」とアリス。

 「ならどっちへいってもかんけいないじゃん」とねこ。

 「でもどっかへはつきたいんです」とアリスは、説明するようにつけくわえました。

 「ああ、そりゃどっかへはつくよ、まちがいなく。たっぷり歩けばね」

 アリスは、これはたしかにそのとおりだと思ったので、べつの質問をしてみました。「ここらへんには、どんな人がすんでるんですか?」

 「あっちの方向には」とねこは、右のまえ足をふりまわしました。「帽子屋がすんでる。それとあっちの方向には」ともうかたほうのまえ足をふりまわします。「三月うさぎがすんでる。好きなほうをたずねるといいよ。どっちもキチガイだけど」

 「でも、キチガイのとこなんかいきたくない」とアリスはのべます。

 「そいつはどうしようもないよ。ここらじゃみんなキチガイだもん。ぼくもキチガイ、あんたもキチガイ」

 「どうしてあたしがキチガイなんですか?」とアリス。

 「ぜったいそうだよ。そうでなきゃここにはこない」とねこ。

 アリスは、そんなのなんのしょうめいにもなってないとおもいました。でも、先をつづけます。「じゃあ、あなたはどうしてキチガイなの?」


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