「まずだね、犬はキチガイじゃない。それはいい?」 「まあそうね」とアリス 「すると、だ。犬は怒るとうなって、うれしいとしっぽをふるね。さて、ぼくはうれしいとうなって、怒るとしっぽをふる。よって、ぼくはキチガイ」 「それはうなるんじゃなくて、のどをならしてるっていうのよ」とアリス。 「お好きなように」とねこ。「女王さまときょう、クロケーをするの?」 「したいのはやまやまだけど。でもまだしょうたいされてないの」 「そこで会おうね」といって、ねこは消えました。 アリスはたいしておどろきませんでした。へんてこなことがおきるのに、もうなれちゃったからです。そしてねこがいたところを見ていると、いきなりまたあらわれました。 「ところでちなみに、赤ちゃんはどうなった?」とねこ。「きくのわすれるとこだった」 「ぶたになっちゃった」とアリスは、ねこがふつうのやりかたでもどってきたのとかわらない声で、しずかにいいました。 「だろうとおもった」ねこは、また消えました。 アリスはちょっとまってみました。ねこがまたでてくるかも、とおもったのです。が、でてこなかったので、一分かそこらしてから、三月うさぎのすんでいるはずのほうに歩きだしました。「帽子屋さんならみたことあるし、三月うさぎのほうがおもしろいわよね。それにいまは五月だから、そんなすごくキチガイでないかもしれない――三月ほどには」こういいながら、ふと目をあげると、またねこがいて木のえだにすわっています。 「ぶたって言った、それともふた?」とねこ。 「ぶた。それと、そんなにいきなり出たり消えたりしないでくれる? くらくらしちゃうから」 「はいはい」とねこ。そしてこんどは、とてもゆっくり消えていきました。しっぽの先からはじめて、最後はニヤニヤわらい。ニヤニヤわらいは、ねこのほかのところが消えてからも、しばらくのこっていました。
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