No.56

 いいえ、涙はありません。「いい子だからね、ぶたになっちゃうなら、もうかまってあげませんからね!」とアリスはまじめに言いました。かわいそうな生き物は、またしゃくりあげます(あるいは鼻をならしたのか、どっちかはぜんぜんわかりません)。そして二人は、しばらくだまったままでいました。

 「でもこの生き物をおうちにつれてかえったら、どうしてやったらいいんだろう」とアリスがちょうど思ったときに、そいつがまた鼻をならしました。それがすごくきょうれつで、アリスはびっくりしてその顔をのぞきこみました。こんどは、もうまちがえようがありません。それはまったくもってぶたそのものでした。だから、これ以上だっこしてやるのは、じつにばかげてる、と思いました。

 そこでアリスはその小さな生き物を下におろし、するとしずかにトコトコと森にむかっていったので、ずいぶんホッとしました。「あれでおっきくなったら、しぬほどみっともない子どもになったでしょうね。でもぶたとしてなら、なかなかハンサムじゃないかな、と思う」そしてアリスは、知り合いのなかで、ぶたになったほうがうまくやっていけそうな子たちを思いうかべてみました。そして「もしちゃんとあの子たちを変えるほうほうさえわかれば――」とちょうどいったとき、何メートルか先の木の大えだに、あのチェシャねこがすわっていたので、アリスはちょっとぎょっとしました。

 ねこは、アリスを見てもニヤニヤしただけです。わるいねこではなさそうね、とアリスは思いました。が、とってもながいツメに、とってもたくさんの歯をしていたので、ちゃんと失礼のないようにしないと、と思いました。

 


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