No.92

「でも、中のものが 外に 出ちゃうでしょう。ふたが開いてるの、知ってました?」とアリスが優しく指摘しました。

 「知らなかった」と騎士(ナイト)は、ちょっと困ったような顔色を浮かべて申しました。「じゃあ、中のものも全部こぼれちゃったはずだ! 中身がなけりゃ、箱もなんの役にもたたない」と言いながら騎士(ナイト)は小箱を鞍からはずして、まさにしげみに投げ込もうとしたところでいきなり何か思いついたらしく、慎重に木にぶら下げました。そして「なぜああしたか、わかる?」とアリスに申します。

 アリスは、首を横にふりました。

 「ハチが中に巣をつくるといいな、と思ったから――そうしたらハチミツが手に入るでしょう」

 「でも、ハチの巣ならもう持ってるじゃないですか――少なくともそれらしいものを。ほら、鞍にゆわえてある」とアリス。

 「うん、それもすごくいいハチの巣なんだよ」と騎士(ナイト)は、不満そうな声でいいました。「もう最高級品。それなのに、ハチの一匹たりとも、近寄ってきさえしないんだよ。それともう一つ、ねずみ取りも。ネズミのせいでハチがこないのかも――それともハチのせいでネズミがこないのかな。どっちかわからないけど」

 「ええ、ねずみ取りはちょうどふしぎに思ってたとこです。馬の背にネズミがいるなんて、あまりありそうにないと思ったから」とアリス。

 「あまりありそうにない、かもしれないけど、でも 万が一 きたら、そこらじゅう走り回られちゃかなわないでしょうに」と騎士(ナイト)。そしてちょっと間をおいてから続けます。「つまりね、 あらゆる事態に そなえておくのがだいじなわけ。だからこの馬は、足のまわりにあんなに金具をつけてるんだよ」

 「でも、なんのためのものなんですか?」アリスは興味津々といった声でききました。

 騎士(ナイト)は答えました。「サメにかまれるのをふせぐため。ぼくならではの発明なんだよ。さあ、馬に乗るのをてつだって。森のはしまで送ってあげよう――そのお皿はなんのお皿?」

 「すももケーキ用だったんですけど」とアリス。

 「いっしょに持ってったほうがいいね。すももケーキが見つかったときに便利だから。このふくろに入れるのを手伝ってよ」


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