No.81

でもいまの話を、アリスはぜんぜん聞いていませんでした。まだ片手を眉にかざして、道の向こうを熱心にながめています。「こんどはだれかが見える! でも、こっちに向かってるけどすごくゆっくり――しかも、ずいぶんとへんてこなふるまいばっかしてるわ!」(というのもその伝令は、こっちに向かいながらもぴょんぴょん跳び上がったり、ウナギみたいにくねくねしたりして、おっきな手を左右にうちわみたいに広げているのです)。「ちっとも」と王さま。「そやつはアングロサクソンの伝令なのじゃ――そしてあれは、アングロサクソン式ふるまい。あれをやるのは、あやつが晴れがましいときだけじゃな。そしてあやつの名はヘイヤ」(つづりは Haigha だけれど、発音は mayor と韻をふむように)。

 アリスはついつい始めてしまいました。「ハヒフヘホの恋人は、晴れがましいから大好き。ひどいから大きらい。食べさせてあげるのは――えーと、あげるのは――あげるのは、ハムサンドに干し草。名前はヘイヤで、住まいは――」

 「住まいはほったて小屋じゃ」と王さまはあっさり申しました。自分がゲームに参加したとはつゆほども気がついていません。アリスは、ハヒフヘホで始まる地名が思いつかずに困っていたところだったのです。「もう一人の伝令はボウシャと言うんじゃ。伝令は 二人 おらんとな。行くのに一人、戻るのにもう一人」

 「あの、すみませんけど」とアリス。

 「すまないようなことは、最初っからしないことじゃ」と王さま。

 「いえ、意味がわからないって申したかったんですけど。行くのに一人、戻るのにもう一人って、なぜですか?」

 王さまは、いらだたしそうに繰り返しました。「だから、いま申したであろうが。伝令は二人おらんと――送るのと、取ってくるのとな。取ってくるのに一人、送るのに一人じゃ」

 このしゅんかんに伝令がとうちゃくしました。ハァハァヒィヒィと息をきらしすぎていて、一言も口がきけず、手をばたばたふりまわしながら、かわいそうな王さまにむかってすっごくおっかない顔をしてみせるばかりでした。

 「こちらのお若いご婦人に言わせると、おまえはハヒフヘホの恋人じゃそうな」王さまは、伝令の注意を自分からそらそうとして、アリスを紹介しました――が、むだでした――アングロサクソン的ふるまいは、どんどんとんでもないものになるばかりで、でっかい目が左右にはでにギョロギョロいたします。


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