ぼくは棚からコルク抜きを手に そしてドアに鍵がかかって悩苦(のうく) そして扉がしまっていると見て 長い間がありました。 「それだけ?」とアリスはおずおずとたずねました。 「これだけ。さよなら」とハンプティ・ダンプティ。 これっていきなりすぎないかしら、とアリスは思いました。が、立ち去れというのを ここまで ほのめかされると、このままいたらかなりお行儀わるいな、という気がします。そこで立ち上がり、手を差し出しました。「さよなら、またお目にかかるまで!」となるべく明るい声で言います。 「またお目にかかることなんか、 あったとしても わたしには見分けがつくまいよ」ハンプティ・ダンプティは怒ったように返事をしながら、指を一本差し出してアリスに握らせました。「あんた、ほかの人間とえらくそっくりだからねえ」 「ふつうは、顔で見分けるものですけれど」とアリスは慎重にもうします。 「わたしが言ってるのも、まさにそういうことだよ。あんたの顔ときたら、ほかのみんなとおんなじだ――目が二つ、そんな具合に――」(と親指で空中に場所をしるし)「鼻がまんなかで、その下に口。いつだって同じ。たとえば目が二つとも片っぽに寄ってるとかすれば――あるいは口がてっぺんにあるとか――それならちったぁ見分けがつこうってもんだがね」 「それじゃみっともないでしょう」とアリスは反対しましたが、ハンプティ・ダンプティは目を閉じて「試してもいないくせに」と言っただけでした。 アリスはもうしばらく待って、ハンプティ・ダンプティがまた口を開くかどうか見てみました。でも二度と目を開きもしなかったし、アリスをまったく意に介する様子もなかったので、もういちど「さようなら!」と言ってみました。そしてこれにも返事がなかったので、アリスは静かにそこを立ち去りました。でも歩きながら、どうしてもつぶやかずにはいられませんでした。「まったく、どうしようもなく腹のすえかねる――」(このことばは口に出していいました。こんなに長いことばを言えるのはすごく気が休まったからです)「どうしようもなく腹のすえかねる人にはたくさん会ったけど、その中でもあれほど――」でもこの文は結局最後まで言えませんでした。というのもまさにその しゅんかん、森中に「グシャッ」というすさまじい音がとどろきわたったからです。
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