「きみの足下をはいずっているのが」(とブヨに言われて、アリスはあわてて足をひっこめました)「バタつきパンチョウね。羽は薄いバタつきパンで、胴体が耳のところで、頭が角砂糖」 「それで これは なにを食べてるの?」 「クリーム入りの薄い紅茶」 新しいなぞが、アリスの頭に浮かびました。「もしそれが見つからなかったら?」 「そしたら死ぬよ、もちろん」 「でも、それってずいぶんよくありそうだけど」とアリスは考えこんで言いました。 「しょっちゅうだよ」とブヨ。 これをきいて、アリスはしばらくだまって考えこんでしまいました。ブヨはその間、退屈しのぎにアリスの頭のまわりをブンブン飛んでいます。最後にまた枝にとまって、こう言いました。「きみって、名前をなくしたりしたくないよね」 「いいえ、まさか」アリスはちょっと不安そうです。でも、ブヨは気軽な調子で続けました。 「うん、でもどんなもんだろうね。名無しで家に戻れたらすごく便利だと思わない? たとえば家庭教師が授業できみを呼びたくても、『始めますよ、――』と言って止めるしかなくて、だって家庭教師が呼べる名前もないし、そうなったらもちろんきみもいかなくてすむわけでしょ」 「それじゃぜったいすまないわ、まちがいなく。先生はぜったいにそんなことで、授業をやめたりしないもの。あたしの名前が思い出せなければ、召使いたちを呼ぶときみたいに『ちょっと!』と言うだけよ」
|