この間ずっと、車掌さんはアリスをながめていました。最初は望遠鏡を使って、それから顕微鏡を使って、それから双眼鏡を使って。とうとう車掌さんは言いました。「旅行の方向がまちがってるぞ」そして窓を閉めて、あっちに行ってしまいました。 「こんなに小さな子供なんだから、自分の名前がわからなくても、行く方向くらいは知らないとダメだね!」と向かいにすわった紳士(白い紙の服を着ています)が言いました。 白い服の紳士のとなりにすわっていたヤギが、目を閉じて大声でいいました。「ABCが暗唱できなくったって、 きっぷ売り場への道くらいは知ってないとダメだね!」 ヤギのとなりには、カナブンがすわっていました(総じて、なかなか風変わりな乗客ばかりいっぱい集まった客車でした)。そしてどうやら、みんな順番にしゃべるというのが規則のようで、 そのカナブンが 先を続けます。「この子は、ここから貨物扱いで戻ってもらわんとダメだね」 カナブンの向こうにだれがすわっているのか、アリスには見えませんでしたけれど、次に聞こえてきた声はずいぶん狼狽(ろうばい)したようすです。「機関車を換えて――」と言って、そのままとぎれてしまいました。 「ロバみたいな声ね」とアリスは思いました。すると耳元で、とっても小さな声が聞こえました。 「いまのでだじゃれができるかもね――『ロバ』の『狼狽(ろうばい)』、でね」 すると遠くのほうで、とてもやさしい声が言いました。「その子には『小娘、取り扱い注意』のラベルをつけないといけませんわ――」 そしてそのあと、次々に声がつづきます(「この客車って、ずいぶんたくさん人が乗ってるのねえ!」とアリスは思いました)。「指先でも切手(きって)もらって、郵便で送ったら――」「電信で、電報扱いで送らないと――」「この先、その子に列車を牽かせないと――」などなど。
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