No.116 第 12 章 どっちが夢を?
「陛下、そんなに大きな声で鳴くもんじゃありませんわ」とアリスは目をこすり、子ネコに向かって敬意ときびしさをこめて申しました。「もう、とってもすてきな夢を見ていたのに、目がさめちゃったでしょう! でも、おまえもいっしょだったわよね、子ねこちゃん――鏡の国の世界中ずっと。知ってた?」 子ネコたちのとっても不都合なクセとして(というのはアリスがまえに 言ったせりふですが)、こちらが何を言っても、必ずミャアと言うことがあります。「『イエス』だけがミャアで、『ノー』がニャアとか、そういう規則があればいのに。そうすれば会話が続くでしょう。でも、いつだって同じことしか言わない人と、話のしようがないじゃない!」 この時にも、子ネコはミャアと言っただけでしたので、それが「イエス」の意味か「ノー」の意味かを当てるのは不可能でした。 そこでアリスはテーブルの上のチェスの駒をさがしまわって、赤の女王(クイーン)を見つけだしました。それから炉端のじゅうたんの上にひざまずいて、子ネコと女王(クイーン)をご対面させました。そして、勝ち誇ったように手をたたきます。「さあ子ネコちゃん、おまえが変身したのがそれだと白状なさい!」 [イラスト: ダイナとアリスと子ネコたち] (「でも、駒を見ようともしないのよ」とあとでお姉さんにすべてを話しているときにアリスは言いました。「顔を背けて、見ないふりをするの。でも、 ちょっとは うしろめたい感じだったから、たぶん赤の女王(クイーン)さまだったのよ、ぜったいに」) 「もうちょっと背筋をのばしてすわんなさい!」とアリスは楽しげな笑い声をたてます。「それに、何を――何を鳴こうか考えてる間、会釈なさい。時間の節約になる、でしょ!」そしてアリスは子ネコを抱き上げると、小さくキスしてやりました。「赤の女王(クイーン)となった名誉をたたえて」だそうです。 「かわいいスノードロップ!」とアリスは続けて、肩越しに白の子ネコをながめました。白の子ネコはまだじっと洗面中です。「白の閣下、ダイナはいったいいつになったら、おまえを洗い終わるのかしらねえ。夢の中でおまえがあんなにみすぼらしかったのも、そのせいにちがいないわ――ダイナ! おまえ、白の女王さまの顔を洗ってるって知ってた? 不敬罪だわよ!」 じゅうたんに片ひじをついて、あごに手をあてて心地よく寝っ転がり、子ネコたちをながめながら、アリスはさらに続けました。「そして ダイナは いったいなんになったんだろう? ねえダイナ、おまえ、ハンプティ・ダンプティになったの? たぶん そうだと思うな――でも、まだお友だちには言わないほうがいいわよ。あたしもまだはっきりしないし」 「ちなみにね、子ネコちゃん、おまえがほんとにあたしの夢の中にいたんなら、おまえが ぜったい 楽しんだはずのことが一つはあるわ――すごくたくさん詩を朗読してもらったんだけれど、それがみんなお魚のことなの! 明日の朝にはほんとうにおおごちそうよ。朝ごはんを食べてるとき、ずっと『セイウチと大工 』を暗唱してあげるわ。そうしたら、朝ごはんがカキだってつもりになれるでしょう!」 「さあ子ネコちゃん、こんどは、あれをすべて夢にみたのがだれだったかを考えてみましょう。まじめにきいてるんだから、そんなに前足をなめてばかりいるんじゃない! ダイナに朝、洗ってもらったばっかりでしょう! つまりね、 夢を見たのは、あたしか赤の王さまかのどっちかにまちがいないのよ。赤の王さまはあたしの夢の一部よね、もちろん――でも、そのあたしは、赤の王さまの夢の一部でもあったのよ! だからほんとに赤の王さまだったのかしら、子ネコちゃん? おまえは赤の王さまの奥さんだったんだから、知ってるはずでしょう――ねえ、おねがいだから、考えるのを手伝ってよ! 前足なんかあとでいいでしょうに!」でも意地悪な子ネコは、反対側の前足をなめはじめただけで、質問が聞こえないふりをするばかりでした。 あなたは どっちだと思いますか?
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