No.113

 「一分かそこら考えてみてからあててみるがよいぞ。その間に、こちらは陛下の健康を祈って乾杯いたそう――アリス女王の健やかならんことを!」と赤の女王さまは、思いっきり金切り声をあげて、お客たちはみんなすぐに乾杯して、しかもとってもへんてこなやり方で飲んだのでした。あるモノはグラスを消化器みたいに頭のてっぺんにのっけて、顔に流れ落ちてきたのを全部飲み干しました――デカンターをひっくり返して、テーブルのふちから流れ落ちるワインを飲んでいます――そして三人(カンガルーみたいです)はローストマトンのお皿にわれさきによじのぼって、うれしそうに肉汁をなめだすのです。「かいばおけのブタみたいね」とアリスは思いました。赤の女王さまが、アリスに向かって顔をしかめながら申します。

 「お返しに、見事なスピーチをするがよいぞ」

 そしてアリスが、とてもすなおに、でもちょっとびくびくしながら立ち上がると、白の女王さまがささやきます。「わたくしたちが、支えてさしあげないといけませんですからねえ」

 「ありがとうございます。でも、支えていただかなくても、だいじょうぶだと思いますから」とアリスもささやき返しました。

 「そんなことですむと思っておるのかえ?」赤の女王さまがきっぱりと申します。そこでアリスは、なるべく優雅にその役目を果たそうとしたのでした。

 (「それで、二人とも すっごく 押してくるの! まるであたしをペシャンコにおしつぶしたいみたいに!」とアリスは、あとでこの祝宴の様子をお姉さんに話してあげたときに言いました。)

 確かに、スピーチをしながらアリスとしては、その場にじっとしているのがなかなかむずかしくなっていました。女王さま二人はそれぞれ右と左から猛烈に押してきて、アリスはほとんど空中に持ち上げられそうなくらい。「感謝の念で天にも昇る思いです――」とアリスは切り出しましたが、そう言いながら、アリスは ほんとうに 何センチか宙に上ってしまいました。でも、テーブルのふちをつかまえて、なんとか自分を引き下ろしたのでした。

 「用心なさいな」と白の女王さまは、アリスの髪の毛を両手でつかんでわめきました。「何か起こりますわよ!」

 そしてそのとき(とアリスはあとになって表現しました)いろんなことが一気に起きました。ロウソクがみんないっせいに天井までのびあがり、まるでてっぺんに花火のついたイグサのしげみみたいになりました。そしてびんはと言えば、みんなお皿を二枚ずつ取って、それを急いで翼として自分にくっつけました。そしてフォークを脚としてくっつけると、あちこちめがけてパタパタ飛び回り始めたのでした。「ほんとうにまるで鳥みたいに見えるのねえ」とアリスは、始まりつつあるこのとんでもない混乱の中で、やっとのことでそう考えました。


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