No.64

 「ないかも」とアリスはしんちょうに答えます。「でも、音楽を教わるときには、こうやって時間をきざむわよ」

 「おぅ、それだそれ、そのせいだよ」と帽子屋さん。「やつだってきざまれたかねぇやな。いいか、やつとうまいことやりさえすりゃあ、やつは時計がらみのことなら、ほとんどなんでも塩梅(あんばい)してくれらぁね。たとえば、朝の9時で、ちょうど授業の始まる時間だ。でもそこで時間にちょいと耳うちすれば、いっしゅんで時間がグルグルと! さあ午後一時半、ばんごはんの時間だよ!」

 (「いまがそうならねえ」と三月うさぎは小声でつぶやいた。)

 「そうなったら、なかなかすごいでしょうねえ、たしかに」とアリスは、考えぶかげにいいました。「でもそしたら――あたしはまだおなかがすいてないわけよねえ」

 「最初のうちは、そうかもしんねぇけど」と帽子屋さんが言いました。「でも、いつまでも好きなだけ一時半にしとけるんだぜ」

 「あなた、そんなことしてくらしてるんだ」とアリス。

 帽子屋さんは、かなしそうに頭をふります。「おれはちがうよ。おれと時間は、こないだの三月に口論してさぁ――ちょうどあいつがキチガイになるちょっと前だったけどね――」(と三月うさぎを茶さじで指さします)「――ハートの女王さまがやった大コンサートがあって、おれもうたうことになったんよ」

 


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