No.89
 

 ライオンはうなりながら、またねっころがりました。「おれにわかるわけねぇだろが。ほこりまみれで、なんにも見えやしねぇ。おい怪物くんよぉ、ケーキ切るのにいつまでかかってんの!」

 アリスは小川のほとりにすわりこんで、ひざにおっきなお皿をのせて、ナイフでいっしょうけんめい切っておりました。「すごく頭にくるのよ!」とライオンに答えます(もう「怪物」よばわりされるのはなれちゃいました)。「切っても切っても、またくっついちゃうの!」

 一角獣(ユニコーン)が言います。「鏡の国のケーキの扱いを知らねぇな。まずみんなに配って、その後で切るんよ」

 これはまったくのナンセンスに聞こえましたが、アリスはさからわずに立ちあがってお皿をまわすと、ケーキは自分で三切れにわかれてくれました。「 それから 切りなよ」と、空っぽのお皿を持って自分の場所に戻ったアリスに、ライオンが言いました。

[イラスト: 太鼓で叩き出す]

 「おいおい、こんなの不公平だぞ!」どうやって切ればいいのか、アリスがナイフを手にとほうにくれているところへ、一角獣(ユニコーン)が言います。「怪物ったら、ライオンにはおれの倍もくれてやってるじゃないか!」

 ライオンが言います。「だけど、自分にはぜんぜん残さなかったぜ。おい怪物くん、すももケーキは好きか?」

 でもアリスがこたえるより先に、太鼓が鳴り出しました。

 その音がどこから出てきたのか、アリスには見当がつきませんでした。あたり一面、太鼓の音でいっぱいで、それがアリスの頭の中になりひびいて、ほかに何も聞こえない感じです。アリスはこわさのあまり、たちあがって小川を飛び越え、

*     *     *     *     *     *

 

そして見るとちょうど、ライオンと一角獣(ユニコーン)も、宴会をじゃまされて怒った表情で立ちあがるところでした。アリスはひざをついて耳を手で覆い、すさまじい太鼓の轟音をなんとか閉め出そうとしますが、むだでした。

 「ライオンも一角獣(ユニコーン)も、あの太鼓で街から叩きだされなければ、もうほかにたたきだしようがないでしょうよ!」とアリスは思いました。


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